佐藤恒治さんがトヨタに残したもの──「速さ」と「現場」を取り戻した3年間

SOUPで日々クルマと向き合っていると、「会社のトップが何を大事にしているか」は、必ず現場の空気に表れると感じます。今回、トヨタ自動車の社長交代を知って、真っ先に思い浮かんだのは、佐藤恒治さんが、この短い3年間で何を変え、何を残したのか、という点でした。
前任の豊田章男さんが14年という長期政権だったことを考えると、3年という期間は確かに短く見えます。ただ、佐藤さん自身が語っていたように、今の自動車業界は「待ってくれない」世界です。電動化、ソフトウエア、環境規制、地政学リスク。どれもが同時進行で押し寄せる中、意思決定のスピードを取り戻すことが、何よりも重要だったのだと思います。
佐藤さんの功績で印象的なのは、「トヨタは巨大だから動けない」というイメージを、少しずつ壊していった点です。クルマづくりの現場に目を向け、開発や生産の声を経営に近づける。その姿勢は、私たちのような現場仕事をしている人間には、とても共感できるものでした。

これは、セラミックコーティングの仕事にもよく似ています。どれだけ高性能な被膜でも、下地処理が甘ければ意味がありません。SOUPでは、塗る前の洗浄やガスプライマーによる表面活性をとても大切にしています。佐藤さんがやってきたのも、派手な改革というより、「トヨタという巨大なボディの下地を、もう一度整える作業」だったように感じます。
また、佐藤さんは今後、トヨタの副会長・CIOとして、さらに日本自動車工業会といった産業全体の役割を担っていきます。「トヨタの社長であり続けたい気持ちはある」と語りながらも、“We”を選んだ判断には、強い責任感を感じました。
クルマは一社だけでは作れません。業界全体で日本の勝ち筋を探す。そのために一歩引く。これは、職人としても経営者としても、とても勇気のいる決断です。佐藤さんの3年間は短かったかもしれませんが、「次につなぐための下地」は、確実に整えられたと私は思います。
近健太さんという選択──「稼ぐ力」を磨く経営は、下地づくりそのもの

新社長に就任する近健太さんの会見を見て、正直に「トヨタらしくないな」と思いました。でも、それは悪い意味ではありません。「おカネ好きのおじさんです」と冗談を交えながら話す姿は、とても人間味があり、同時に覚悟も感じられました。
近さんは、長く経理・経営を歩んできた方だそうです。収益構造、生産性、投資判断。こうした分野は、どうしても数字の話になりがちですが、近さんの言葉からは「数字の先にある現場」を見ようとする姿勢が伝わってきます。これは、SOUPの経営とも重なります。
私たちの仕事でも、「高いコーティングを売ること」が目的ではありません。お客様のクルマを長く大切に使ってもらう。そのために、どこに時間と手間をかけるかを考え続けています。ガスプライマーを使うのも、見えない部分で定着力を高め、結果として仕上がりと耐久性を上げるためです。
近さんがCFOとして進めてきた「稼ぐ力の強化」も、まさに同じ考え方だと思います。派手な商品や話題性ではなく、構造そのものを強くする。特に、ウーブン・バイ・トヨタでの経験は大きいはずです。ソフトウエア企業として、徹底した情報共有を行う組織。その外側からトヨタを見た経験は、今後の経営に確実に生きてくるでしょう。
佐藤さんが「産業全体」に軸足を置き、近さんが「社内」に軸足を置く。この体制は、表に見える以上に合理的です。セラミックコーティングで言えば、片方が環境や使い方を考え、もう片方が下地と施工品質を徹底的に詰める。その両輪があってこそ、仕上がりは安定します。
トヨタが目指す「産業報国」という言葉は、少し堅く聞こえるかもしれません。でも、私たちの仕事に置き換えれば、「地域のお客さんのクルマを、きちんと守る」という当たり前の話です。近さんの経営は、派手さはなくても、踏ん張れる強さを持ったものになる。そんな期待を抱かせる人事だと感じています。


























